恋人同士がどう過ごすのか、関係を深めるプロセスを教えてくれたのは、間違いなく彼女だった。

だけど大人になった今になってみると、心はどこかに置き去りにされていたような気がする。


12年も経った今になって、若かったあの頃の初めての恋人にまた出会うとは、1ミリたりとも思っていなかった。

ほんの少しの間とは言え、恋人として一緒に過ごした彼女に懐かしさはあるものの、今更好きとか恋とかいう感情は微塵もない。


初めて愛美と出会った日のときめきとか、偶然愛美と再会した日の胸の高鳴りとか、勤めている会社の新入社員の中に愛美を見つけた時に感じた運命的なものとか、愛美に感じた自分ではどうにもできないほどの心をかき乱されるような感情は彼女との間にはなかったし、再会した今もそれは変わらない。

愛美の本心を知りたいとあんなに思っていたはずなのに、気が付けば自分の愛美への想いを改めて思い知らされる。

いい歳をしてヤキモチを妬いたり、自分のために泣いたり取り乱したりしてくれるのかと試そうとしたり、中身は覚えたての恋にうろたえる子供みたいだ。

(なんだかんだ言って、愛美以上に好きになれる相手なんかいないのに…。俺、なにやってんだろ…。)

みっともない事をしているなと思いながらも、歳を重ねた分だけプライドが邪魔して、素直になれない。

素直に一言ごめんと謝って、愛してると言って抱きしめられたら、愛美はずっと笑ってそばにいてくれるだろうか?