その頃、第二支部ではオバサマたちがお茶を飲んだり事務作業をしたりしながら、のんびりおしゃべりに興じていた。

「菅谷さんも隅に置けないわねぇ。」

「まぁ、実際かわいいしね。」

「あんなイケメンな幼馴染みが突然出て来たもんだから、支部長も気が気でないでしょう。」

「なんともないふりしてるけど、焦ってるのバレバレ。」

「好きなら好きって言えばいいのに、顔合わせると憎まれ口ばかり叩いてさぁ。」

「前からわかってたけど、支部長って菅谷さんの事ホントに好きよねぇ。」

愛美と緒川支部長が付き合っている事を知らないオバサマたちは、緒川支部長が一方的に愛美を好きだと思っているようだ。

「でもホラ、佐藤さんが…。」

「ああ…昔付き合ってたって。」

「オーナーは菅谷さん狙ってるみたいだし、あんな仲のいいとこ見せつけられてたら、支部長そのうち佐藤さんに気移りしちゃうかも…。」

「それもあるかもね。」

鞄の中の資料を整理しながら黙ってオバサマたちの話を聞いていた高瀬FPが、思わず手を止めて顔を上げた。

「初耳ですね。佐藤さんと支部長ってそんな関係なんですか?」

「らしいわよ。佐藤さん本人から聞いたの。」

「ふーん…。でもそういう個人的な話は、あまり気軽にしない方がいいですよ。どこで誰が聞いてるかわからないですから。変な噂が広がると噂された当人たちが仕事しづらくなるし、下手すると支部長が異動させられるかも。」

「そうね、それは困るわ。」

「じゃあ、この話はおしまいという事で。」

高瀬FPがたしなめると、オバサマたちは納得した様子でおしゃべりをやめて仕事に戻った。


この時、隣の第一支部で“菅谷さんがやまねこのオーナーの子を妊娠していて、結婚する事になった”というデタラメな噂が広まっている事など、第二支部の職員たちは知るよしもなかった。