保険証が入っている鞄を掴み愛美の膝の上に乗せると、健太郎は愛美を素早く横抱きにした。

「ちょっと!!いきなり何すんのよ!!」

「病院行こ。俺が怪我させたんだしな。」

「仕事終わったら自分で行くってば!!」

オバサマたちは、また健太郎にお姫様だっこされている愛美を見てニヤニヤしている。

「すみませーん、ちょっとお借りしまーす。」

「どうぞー。オーナー、怪我させた責任取ってあげてねー。」

「もちろんでーす。」

「はーなーせー!!」

(何が責任取ってあげてねだ!!他人事だと思いやがって!!)

健太郎は愛美を抱きかかえたままエレベーターのボタンを押した。

隣の第一支部の職員たちが、何事かと二人を見ている。

「オーナー、菅谷さん連れてどこ行くの?」

喫煙スペースにいた、噂好きで有名な第一支部の溝口さんが、楽しそうに笑って健太郎に声を掛けた。

「病院です。責任取ろうと思って。」

「ちょっと!!おかしな言い方やめてよ!」

(変な誤解されたらどうすんだ!!)

好奇の眼差しを受けながら、健太郎は愛美を抱いてエレベーターに乗り込んだ。

「結婚式には呼んでね。」

「もちろんです!」

「そんなんじゃないんです!!」

愛美の叫びも虚しくドアは閉まる。

(絶対変な噂される…!!)


エレベーターの扉が閉まるや否や、溝口さんは第一支部のオフィスに飛び込んだ。

「ねぇねぇ、聞いて!やまねこのオーナーが責任取るって言って、菅谷さんを抱いて病院に連れてったわよ!」

「えっ?!もしかしてそれって…。」

「オメデタ?!」



愛美の懸念していた通り、その噂は一瞬のうちに第一支部の職員に広まった。