愛美は休憩スペースのポットを持って給湯室に向かった。

ポットをすすぎ、新しい水を入れながらふと考える。

(そういえば政弘さんの誕生日、増産月真っ只中で忙しくて、ちゃんとしたお祝いはできなかったな…。)

プレゼントは何がいいかと尋ねると、愛美に洋服を選んでもらいたいと“政弘さん”が言ったので、一緒に買い物に行く事にした。

だけどなかなか時間が取れなくて、結局まだプレゼントは渡せていない。

愛美が一人で洋服を選んで買ってきてサイズが合わなかったり、デザインがあまり気に入らなくても困る。

(洋服はやっぱり一緒に買いに行かなきゃダメだな…。)



水を入れたポットを持って支部に戻ると、緒川支部長が休憩スペースの奥の自販機に小銭を入れていた。

緒川支部長は自販機で缶コーヒーを買うと、布巾でテーブルを拭いている愛美の横を、目も合わせず通りすぎて支部長席に戻る。

愛美には、その横顔がどこか疲れて見えた。

(たまには政弘さんと二人でゆっくり出掛けたりしたいけど…無理言ったらダメだよね。)


緒川支部長は大嫌いだと思っていたのに、付き合い始めると、それも“政弘さん”の一部なのだと思うようになり、前ほど嫌いではなくなった気がする。

職場ではもちろん上司と部下という関係でしかない。

愛美は元々、恋愛とか出会いを職場に求めてはいないし、仕事は仕事、プライベートはプライベートできっちり分別をつけたいタイプだ。


だから今の関係がちょうどいい。


職場ではどんなに無茶な仕事を押し付けられて腹が立っても、仕事を離れると彼が誰よりも優しい事は知っているのだから。