契約手続きを済ませた後で引き留められ、奥さんの作った夕飯をご馳走になりながら、しばらく話し込んだ。

お客さんの家を出る頃には、時刻は10時になろうとしていた。

支部には寄らずこれからまっすぐ帰ったとしても、家に着く頃には11時をまわる頃だろう。

運転席に座ってエンジンを掛け、スーツの内ポケットからスマホを取り出した時、ランプが点滅している事に気付いた。

(…メール?)

メール画面を開くと、それは愛美からのメールだった。

緒川支部長は慌ててメール受信画面を開いた。


“お疲れ様です。
急に友達と会うことになりました。
今夜は友達の家に泊まります。”


メールを読み終えると、緒川支部長は慌てて電話帳画面を開き、愛美の電話番号を表示した。

いつもより鼓動が速い。

(友達って誰…?あいつ…?)

ひとつ大きく息を吸って、ゆっくりと吐いて、愛美に電話を掛けた。

しばらく呼び出し音を聞いた後。

「政弘さん、お疲れ様です。」

愛美の優しい声が、耳に流れ込んだ。

「愛美…。」

どこにいるのかとか、誰といるのかとか、聞きたい事はいろいろあるのに、なぜか胸の奥がしめつけられるようで言葉にならない。

ほんの少し、二人の間に沈黙が流れた。

「明日は休めそうですか?」

沈黙を破ったのは愛美だった。

「うん…。」