オフィスにラブは落ちてねぇ!! 2

5時を過ぎ、窓の外がすっかり暗くなった頃。

愛美が夕飯の支度をしようとした時、テーブルの上に置いたスマホの着信音が鳴った。

(電話…?政弘さんから?)

愛美は“政弘さん”からの着信を確認して電話に出た。

「もしもし…?」

「あ…愛美…。急なんだけど、これからお客さんの所に行く事になってね…帰るの遅くなりそうなんだ。」

「そうなんですね…。」

帰るのが遅くなるという事は、今日もきっと会えないのだろう。

(今日はハッシュドビーフを作るのはやめておこう。)

愛美は冷蔵庫から牛肉を取り出し、冷凍庫にしまいこんだ。

「……ごめんね。」

申し訳なさそうな“政弘さん”の声が愛美の耳に響いた。

「仕方ないです、仕事ですもんね。」

わざと明るい声で答える愛美に、“政弘さん”はため息をついた。

「愛美はきっと何日会えなくても、仕事なら仕方ないって言うんだろうな。」

「えっ?」

思いがけない“政弘さん”の言葉に驚いて、愛美はスマホをギュッと握りしめた。

電話の向こうで“政弘さん”が大きなため息をつくのがわかった。

「…仕事だからもう行くよ。」

寂しげな声でじゃあねと告げて、“政弘さん”は電話を切ってしまった。

(今の…どういう意味…?)

いつもとどこか違う“政弘さん”の様子が気になって、愛美は首をかしげた。

手に持っていたスマホがまた着信音をあげ、愛美は驚いてスマホを落としそうになる。

スマホの画面には、健太郎の名前と電話番号が表示されていた。

(健太郎?なんの用だろう?)