オフィスにラブは落ちてねぇ!! 2

時計の針が4時を指した。

支部長席でパソコンとにらめっこをしていた緒川支部長が息をついて立ち上がり、大きく伸びをしてブラインドの隙間から窓の外を眺めた。

隣のビルの、まだ新しい“居酒屋 やまねこ”の看板をじっと見て眉をひそめる。

(隣のビルにあいつがいると思うと気が休まらないな…。)

幼馴染みだと思うからなのかも知れないが、愛美は健太郎には随分気を許しているようで、自分といる時よりくだけた様子で話す。

付き合いだした頃は“支部長”と呼ばれ、いきなり4文字の名前を呼ぶのはハードルが高いと名前も呼んでくれなかった。

(“健太郎”なら5文字でも呼べるのに?俺は“政弘”なんて呼ばれた事ない…。)

ほんの些細な事に嫉妬している自分が子供みたいで情けないと思いながらも、どうしても気になってしまう。

昨日は愛美に会いたい気持ちを必死で抑えた。

今日は早く仕事を終えて会いに行きたい。

会ったら思いきり抱きしめて、愛美が自分だけを愛してくれている事、自分だけの愛美である事を確かめたい。

愛美を疑うわけではないけれど、そうしないと不安でおかしくなってしまいそうだ。

(本気で好きになると、こんなつまらない事でも不安になるんだな…。今まで誰と付き合ってもこんな事なかったのに…。)


緒川支部長は自販機で缶コーヒーを買ってから再び椅子に座り、デスクの上の書類を手に取った。

再来週の慰安旅行の詳細が書かれたその書類を眺めながら、缶コーヒーのタブを開けた。

(どうしても愛美と二人で行きたい所があるんだよな…。)