オフィスにラブは落ちてねぇ!! 2

健太郎は緒川支部長のグラスに並々と日本酒を注いで、前掛けのポケットからタバコを取り出した。

「緒川さんはタバコ吸わないんですか?」

「ああ、うん。俺は吸わないけど。どうぞ。」

「すみません。じゃあ失礼して…。」

タバコに火をつける手付きに、どこか並々ならぬ色気を感じる。

(相当の手練れだな、こいつ…。)

緒川支部長は酔いのまわった頭でぼんやりとそんな事を考えながら、また日本酒を飲んだ。

「菅谷とは幼馴染みなんだろ?」

無意識のうちにそんな言葉がこぼれ落ちた。

健太郎は少し驚いた様子で緒川支部長を見た。

「そうですよ。家も近所だし、幼稚園から高校まで、ずっと一緒でした。」

「ふーん…。ホントにただの幼馴染み?昔付き合ってたんじゃないの?」

(何言ってんだ、俺?)

酔ったせいで頭と口がバラバラに動く。

健太郎は笑ってタバコの煙を吐き出した。

「どうでしょうね。付き合ってたと言えば付き合ってたし、付き合ってないと言えば付き合ってない。」

曖昧な健太郎の返事に、緒川支部長は怪訝な顔をした。

(なんだそれ?)

「幼稚園から高校までずっと仲の良かった幼馴染みが他にも3人いてね。その中でも愛美とは一番仲が良くて。高校生の時に、俺達付き合っちゃおうかってなった事があるんです。」

「ふーん…。」

(やっぱあるのか…。)

「でもいざ付き合ってみると変に意識して、ギクシャクしてうまくいかなくなっちゃったんですよね。1ヶ月も経たないうちに、愛美がやっぱりやめようって。」

健太郎はタバコの火を灰皿の上でもみ消して、ため息混じりに煙を吐き出した。