「あ、そうだ。」

健太郎はカウンターの奥から酒瓶を取り出し、緒川支部長にそのラベルを見せた。

「これ、試飲用にもらったんですけどね、うまいんですよ。一杯どうです?」

「車だから酒は…。」

(いや、待てよ…。シラフで間がもつのか?)

元々人見知りで大人しい性格の緒川支部長にとって、仕事でもないのに知り合ったばかりの相手とシラフで向かい合って食事をするなど、ハードルが高すぎる。

(今日は車置いて帰ればいいか…。)

「やっぱりせっかくだからいただこうかな。今日は車置いて電車で帰るよ。」



それから緒川支部長は、勧められた日本酒を飲みながら、健太郎の作った料理を食べた。

並べられた料理はどれも、あるもので適当に作ったとは思えない美味しさだった。

(うまっ…。やっぱりプロだ…。)

陽気に笑いながらよくしゃべる健太郎は、自分とは正反対の性格だと緒川支部長は思う。

自分もこんなふうに誰とでも打ち解けられる性格だったなら、もう少し明るい学生時代を送れたのかもしれない。

(俺は人見知りで友達も少なかったし、大学生になるまで彼女もできなかったな…。こいつはきっと昔からモテたんだろうな…。見た目もいいし…。)

軽い酔いも手伝って、明るく自信ありげな健太郎と素の自分を比べ落ち込んでしまう。

こんな男がずっと近くにいて、愛美は幼馴染み以上の感情を抱かなかったのだろうか?

(こいつは愛美の事、どう思ってるんだ…?)