ついに我慢の限界に達した愛美は、健太郎の腕を強く掴んで廊下に引っ張り出した。

「いてーよ、愛美!!」

「調子に乗るな健太郎!!仕事の邪魔だ、宣伝してさっさと出てけ!」

「なんだよー…そんなに怒る事ないじゃん。」

「健太郎が余計な事言うからだよ。」

愛美は掴んでいた健太郎の腕を離し、ひとつ大きく深呼吸をして支部のオフィスに戻った。

オバサマたちはニヤニヤしながら愛美を見ている。

(やりにくいなぁ、もう…。健太郎が変な事言うから…。)

愛美がなんともないふうを装って内勤席に着くと、緒川支部長が立ち上がった。

「赤木さん、そんなにのんびりしてて間に合うのか?」

さっきまで愛美を冷やかしていた赤木さんが時計を見て、慌てた様子でバッグにノートパソコンと書類を詰め込んだ。

「大変、もうこんな時間!急いで出ます!!」

「川本さん、今月の見込み客リストがまだ出てない。増産月が終わったからって気を抜いちゃダメだろ。今日中に出して。」

「ハイッ、すみません。」

赤木さんと一緒になって面白がっていた川本さんが、慌てて席に着きパソコンに向かった。

緒川支部長は小さくため息をついて、内勤席に近付いてくる。

仕事中に騒いでいた事を咎められるのかと愛美がヒヤヒヤしていると、緒川支部長は黙って書類を差し出した。

「菅谷、これ頼む。」

「ハイ…急ぎですか?」

「いや、今日中でいい。」

緒川支部長は書類を手渡すと、目も合わせずに支部長席に戻っていく。

いつもとなんとなく違う緒川支部長の態度に、愛美は首をかしげた。