バスに戻ると、愛美が座っていたはずの席にはなぜか金井さんが座っていた。

(あれ…?そこ、私の席なんですけど…。)

「あっ、ごめんね菅谷さん。しばらく席変わってくれない?話が盛り上がっちゃって…。」

最前列を陣取って、峰岸主管と金井さんは娘の話、通路をはさんで宮本さんと高瀬FPは、どうやら美味しいパン屋さんの話で盛り上がっているらしい。

(高瀬FPって女子力高いのか?それともオバサマの心を掴むのがうまいのか?)

高瀬FPと健太郎は人懐こいところが、どことなく似ているかも知れない。

「はあ…。いいですけど。席、どこですか?」

「一番後ろ。」

仕方なく一番後ろの空いている席を目指した。

「しっ…支部長…。」

そこには緒川支部長が座っている。

いくらなんでも隣同士で座るのは抵抗がある。

「なんだ…。菅谷もか。」

「えーと…。」

「座らないのか?」

「別の席を探します。」

「はぁ?ここでいいだろ。」

「イヤです!!」

「とにかく座れ!バスが出発できないだろ!!」

緒川支部長は愛美の腕をグイッと引いて、無理やり座席に座らせた。

「痛い!!やっぱり自分の席に戻ります!!」

「窓際譲ってやるから、大人しく座ってろ!」

愛美を窓際の席に押し込んで、緒川支部長は逃がさないとでも言うかのように、長い足で通路を塞いだ。