サービスエリアでの休憩時間、愛美がコーヒーを飲んでいると、隣に佐藤さんが座った。

「菅谷さん、そのネックレス素敵ですね。」

佐藤さんは愛美の襟元で揺れる猫のネックレスを見て微笑んだ。

「大事な人からのプレゼントですか?」

「ええ…まぁ…。」

愛美が照れ臭そうにうなずくと、佐藤さんはニコッと笑った。

「良かった、片想いじゃなかったんだ。」

「え?」

小さく呟いた佐藤さんの言葉が聞き取れず、愛美は尋ね返した。

「いえ。その猫がかわいいなぁって。菅谷さんにすごく似合ってます。」

猫のネックレスがよほど気になるのか、佐藤さんがしきりに誉めるので、愛美は少し照れ臭くなる。

「ありがとうございます…。佐藤さんのその指輪も素敵ですね。やっぱり、大事な人からのプレゼントですか?」

「ええ。あっ、支部長じゃないですよ。」

佐藤さんの唐突な言葉に、愛美はドキッとしてうろたえるのを必死で抑えた。

「えっ、ああ…そうなんですね…。」

「なんだかおかしな噂が独り歩きしてたみたいだけど、この指輪をくれたのは、海外赴任中の婚約者です。」

「婚約者…。」

「あ、そろそろ時間ですね。私、そこの自販機でお茶を買ってから戻りますね。」

愛美は佐藤さんの後ろ姿を見ながら、コーヒーを飲み干した。

(佐藤さん…なんで急にあんな話をしたんだろう?支部長との噂を否定したかったのかな?)

なんにせよ、佐藤さんには婚約者がいると聞いてホッとした。

佐藤さんとはなんでもないと“政弘さん”から聞いてはいたけれど、佐藤さんが緒川支部長をどう思っているかわからなかったからだ。

(婚約者がいるなら尚更、元カレでもある上司と噂になるのはまずいよね。)

ほんの少し気掛かりだった事から解放されて、愛美は上機嫌でバスに戻った。