「まずは支部長に挨拶して、職員さんたちに宣伝していいか聞いてみて。」

「支部長…ってどの人?」

「奥の席の…。」

愛美が支部長席に視線を向けると、緒川支部長は気にもとめない様子でパソコンに向かっていた。

「せっかくだから俺のこと紹介してくれる?」

「え?ああ…。ちょっと待ってて。」

愛美は支部長席のそばに行って、緒川支部長に声を掛けた。

「あの…支部長…。」

「なんだ。」

緒川支部長はパソコン画面から視線を移すことなく、マウスを動かしている。

「隣のビルの一階に新しくオープンする居酒屋のオーナーが私の友人なんですが、支部長にご挨拶したいそうです。」

「…わかった。」

マウスから手を離しやっと顔を上げた緒川支部長は、いつになく険しい顔で立ち上がり、健太郎の待つ入り口のそばへと向かった。

「お仕事中にすみません。来週、隣のビルの一階にオープンする“居酒屋 やまねこ”のオーナーの中島健太郎です。」

健太郎はにこやかに頭を下げる。

「ご丁寧にどうも…。川南第二支部の支部長の緒川です。」

緒川支部長は健太郎から差し出されたチラシを受け取った。

「夜は居酒屋ですけど、昼間はランチをやる予定です。是非いらしてください。」

「わかった。行かせてもらうよ。」

「皆さんに店の宣伝させてもらってもいいですか?」

「どうぞ。」

健太郎がオバサマたちに声を掛け始めると、緒川支部長は席に戻り再びパソコンに向かった。