緒川支部長は、営業部に提出するために、今年度の支部の業績をまとめていた。

先ほどから、健太郎が愛美の隣で何やら話し込んでいる。

愛美と健太郎の間には何もないとわかっていても、やはり気になって落ち着かない。

(何話してるんだろう?まさかあいつ、また愛美を口説いてるんじゃ…。)

マウスを握る手に、必要以上に力がこもる。

(落ち着け…。愛美はあいつより俺を選んでくれたんだ。なんでもない、気にするな…。)

平常心を保とうと必死で自分に言い聞かせていると、健太郎が立ち上がり、こちらに向かって歩いてくる。

(なんだ?やる気か?俺はおまえなんかに愛美を渡さないぞ!!)

なんともない顔をしながら、心の中でファイティングポーズを取った時、健太郎は支部長席の前に立ち、ニコニコ笑った。

「緒川さん、おはようございます。」

「おはようございます。先日はお世話になりました。」

社会人としての礼儀は大事だと、一応、先週の歓迎会のお礼を言ってみたりする。

「こちらこそありがとうございました。ところで、ひとつ相談があるんですが、少しだけお時間よろしいですか?」

いつになく礼儀正しい健太郎に、緒川支部長は妙な寒気を覚えた。

「少しなら…。で、相談って?」


健太郎は愛美に話した内容と同じ事を緒川支部長に話した。

そういう事ならと緒川支部長からの許可が下りると、健太郎は頭を下げて帰っていった。

緒川支部長は肩透かしを食らった気分で、大きく息をついて再びパソコンに向かった。