翌日。

朝礼を終えて営業職員のオバサマたちが訪問先へ向かう準備を始めた頃、見慣れない若い男性が支部にやって来た。

「失礼しまーす。」

明るく大きな声で挨拶をする若くて背の高い爽やかなイケメンに、オバサマたちがざわめく。

内勤席で新人の提出書類を用意していた愛美が顔を上げると、その男性は愛美の顔を覗き込むようにしてじっと見た。

「…愛美?」

「え?」

よく見るとそれは、4人いる幼稚園から高校までずっと一緒で仲の良かった幼馴染みのうちの一人、中島 健太郎だった。

「あっ!健太郎!!」

周りからの視線が一斉に愛美に集まる。

「久しぶりだな!成人式以来か?あんま変わってねぇなー。元気だったか?」

健太郎は愛美の肩をガシッと抱き寄せて、ワシャワシャ頭を撫でくりまわした。

「ちょっとやめてよもう!!健太郎こそ変わってないじゃん!でも…なんで健太郎がここにいんの?」

愛美は健太郎の手を振りほどいて、乱れた髪を手で撫で付けた。

「来週、隣のビルの一階で居酒屋オープンすんだよ。その挨拶と、昼間はランチやるから宣伝させてもらおうと思ってさ。」

健太郎は手に持っていたチラシを一枚愛美に手渡した。

店の外観や料理の写真、おすすめメニュー、そして“居酒屋 やまねこ”と店の名前が印刷されている。

「えっ、あれ健太郎の店?」

「まぁな。宣伝させてもらっていいか?」

「そうだったね。」

チラシから顔を上げると、みんなが興味津々の様子で二人を眺めていた。

(あっ…仕事中にまずかったかな…。)

オバサマたちの前でうっかり素の自分を出してしまった事に気付いた愛美は、取り繕うように職場用の笑顔を浮かべた。