「愛美の両親はどんな人?」

“政弘さん”が尋ねると、愛美は両親の事を話し始めた。

穏やかで物腰の柔らかい父親は高校の社会科教師。

特に日本史が好きで、小さい頃はよく歴史博物館やお城に連れて行ってくれたのだが、幼かった愛美には父親の言っている事はよくわからなかったそうだ。

明るくサバサバした性格の母親は、中学校の国語教師。

とにかく大雑把で、『終わり良ければすべて善し』の性格で、プロセスがどうであれなんでも帳尻が合えばいいといつも言うらしい。

ちなみに二人姉弟で、この春社会人になる弟がいる。

弟は小学生の頃からずっとバレーボールをしていて、この春入社する会社の実業団に入る事が決まっているという。


弟の話の後、“政弘さん”は、愛美もスポーツをしていた事があるかと聞いた。

愛美も小学生の頃はバレーボールをしていたけれど、身長があまり伸びず、同じポジションの背の高いチームメイトにはポジション争いで勝てなかったので、あきらめて中学では陸上部に入部して、短距離走の選手としてそれなりの成績も残した。

高校では運動部には入らず家庭科部に入り、週に2度ほど家庭科室に集まって料理や手芸をしていた。


「こんな話、面白いですか?」

高校時代の部活の話をした後、愛美は“政弘さん”に尋ねた。

「面白いって言うか…俺と出会う前の愛美の事を知るのは楽しいし、嬉しいよ。」

「じゃあ、今日はこれくらいにしておきます。今度は政弘さんの話も聞かせて下さいね。」

愛美は少し眠そうな目をして、“政弘さん”の胸に頬をすり寄せた。

「今日はたくさん歩きましたね。」

“政弘さん”は愛美を優しく抱きしめて髪を撫でる。

「疲れた?…もう寝ようか。」