駐車場で車に乗り込んだ“政弘さん”は、ため息をつきながらエンジンをかけた。

別れ際になると、愛美はいつも寂しそうにうつむく。

だけど、ただうつむくだけで“帰らないで”とも“もう少し一緒にいて”とも言わない。

(付き合い始めた頃は言ってくれた事もあるのにな。…って言っても俺が無理やり言わせたようなもんか…。)

遠慮しているのか、我慢しているのか。

もう少しわがままを言って甘えてくれたらいいのにと思う。

(4ヶ月経つけどまだ敬語で話すし、呼び方も“さん”付けだもんなぁ…。年が6つも離れてるから遠慮してる?それともやっぱり俺が嫌いな上司だから心を許せないのかな…。)


“政弘さん”はゆっくりと車を発進させた。

愛美のマンションから自宅までの、走り慣れた夜道。

いつも一人で車を走らせながら、本当は朝まで一緒にいられたらと思う。

(俺だってホントはもっと一緒にいたいけど…一晩中一緒にいたら、寝かせてあげられないかも知れないしなぁ…。)

たとえ一睡もできなかったとしても、自分が少しくらいの無理をする事は気にならないが、愛美に無理をさせたくない。

多くの個人情報を扱う重要な仕事だけに、その管理にはかなりの神経を使う。

寝不足でぼんやりしていてミスをしました、なんていう理由は通用しない。

(せめて休みの日くらいは一緒にいられたらなぁ…。)