今まで知らなかった小さな事が、時間と共に少しずつ積み重ねられて、お互いの良いところも悪いところも全部ひっくるめて好きだと言えたらいいなと“政弘さん”は思う。

「俺が一番好きなのは愛美だけど?」

「またそういう事を…。」

照れ臭そうに赤い顔をして、足早にレジへ向かう愛美の後ろ姿を見つめて、“政弘さん”は笑みを浮かべた。

(また照れてる。かわいいなぁ。)

“政弘さん”が追い付くと愛美はクルリと振り返り、少し背伸びをして、そっと“政弘さん”に耳打ちした。

「私も、一番好きなのは、政弘さんですよ。」

「コロッケより?」

“政弘さん”が笑いを堪えながら尋ねると、愛美は笑って手招きをして、耳を寄せるように促した。

“政弘さん”が少しかがんで耳を近付けると、愛美は“政弘さん”の耳たぶをギュッと引っ張った。

「いてっ!」

「いいですか、よく聞いて下さいよ。政弘さんが、いちっ・ばんっ・好きっ・ですっ!!」

「嬉しいです…。」

愛美が手を離すと、“政弘さん”は耳をさすりながら微笑んだ。

そんな“政弘さん”を見て、愛美は笑った。

「帰ったらすぐに夕飯にしましょうね。」

「俺も手伝おうかな。やった事ないけど…。」

「じゃあ、一緒にやりましょう。」

「うまくできるかな?」

「大丈夫ですよ。少しずつ慣れていけばいいんです。最初はうまくいかなくても、続けていればそのうちコツをつかんで上手になります。」

何気ない愛美のその一言は、“政弘さん”の心にストンと落ちてきた。

(なんか仕事とか人間関係と少し似てるな。)