それから二人で食料品売り場に行った。

“政弘さん”がカートを押し、愛美が食材をあれこれ選んでかごに入れる。

愛美は真剣な顔をしてどの白菜が大きいか見比べたり、産地の違う特産の長ネギをどっちにしようかと長い時間選んでいたかと思うと、惣菜コーナーのコロッケを迷わずかごに入れたりする。

「コロッケは鍋に入れないよね?」

「もちろん入れませんよ。」

今日は鍋のはずなのになぜコロッケなんだろうと、“政弘さん”はかごの中を不思議そうに覗き込んだ。

「愛美、コロッケ好きなの?」

「大好きですよ。美味しいですよね。」

そう言って愛美は子供みたいに無邪気に笑う。

(ああ、これは単純に好きだから食べたいんだな。いわゆる衝動買いってやつだ。愛美にもそんな一面があるんだなぁ。)

それが他の女の子のように甘いお菓子やケーキでないところが、なんとも愛美らしいと、ちょっとおかしくなる。

「改めて考えると、愛美が好きな物ってあんまり知らないんだよなぁ。」

「だったらこれから知って下さい。私も政弘さんの好きな物、たくさん知りたいです。」

それは“政弘さん”には“この先もずっと一緒だから、お互いにゆっくり歩み寄ろう”と言っているように聞こえた。

(まだ付き合ってほんの数ヶ月だ。焦ることないんだな。これからゆっくり時間をかけてお互いを知って行けば…。)