愛美が席を外した後、“政弘さん”は一人でコーヒーを飲みながらぼんやりしていた。

(なんで急にクラブハウスサンド?)

ただ単にお腹が空いていたのかなとか、ポスターのクラブハウスサンドが美味しそうに見えて食べたくなったのかなとも思ったけれど、愛美はクラブハウスサンドを一切れしか食べなかった。

どうやら、お腹が空いていたわけでも、この店のクラブハウスサンドが特別食べたかったわけでもなさそうだ。

(静かな場所で、美味しいコーヒーが飲みたかったから?)

フードコートではファーストフード店のコーヒーくらいしか飲めないし、ざわざわして落ち着かないと思ったのかも知れない。

なんにせよ、愛美に促されてなんとなく入った店だが、評判になるだけあってコーヒーもクラブハウスサンドも美味しかった。

(まあ、愛美がいいならそれでいいか。)

“政弘さん”はカップを口に運び、冷めかけたコーヒーをゆっくりと飲んだ。




その頃。

愛美はあるブランドショップに向かっていた。

以前CMで見て素敵だなと思ったそのブランドのルームウェアを、“政弘さん”のために買おうと思ったのだ。

(確かこのショッピングモールの中にもあったはず…。あ、あった、ここだ!)

視線の先に、ファッションブランド`アナスタシア´の看板を見つけると、愛美は慌てて店の中に飛び込んだ。