それから二人で、たくさんの店を見て歩いた。

どの店も色鮮やかな春物の洋服で埋め尽くされている。

愛美は“政弘さん”に似合いそうな服を見つけては、“政弘さん”の体にあてがう。

「この色似合いますね。」

「そう?こんな色、自分では選んだ事ないから新鮮だなぁ。」

鮮やかな青色のシャツを手に、愛美は大きくうなずいた。

「すごく似合ってますよ。それにサイズもちょうど良さそう。この服プレゼントします。」

「えっ、それはいいよ。自分で買うから。」

“政弘さん”は慌てて愛美の手からシャツを取り上げた。

「私、政弘さんの誕生日、何もプレゼントしてないです。一緒に買いに行こうって言ってたけど、政弘さんが忙しくて行けなかったから。」

「ああ…。あれは選んでくれるだけでいいって意味だったんだけど…。」

「それじゃプレゼントになりません。それにバレンタインデーも何も渡してないです。だからこれは私が。」

愛美がシャツを取り返そうとすると、“政弘さん”は笑って愛美の頭を優しく撫でた。

「いいんだよ。俺は愛美から物をもらうより、何かしてもらう方が嬉しいし…。それにいつも愛美の手料理ご馳走になってるし、それだけでもうじゅうぶんなんだ。だからこれは自分で買うよ。ね?」

「えーっ…。私もプレゼントしたいのに…。」

「気持ちだけ受け取っとく。ありがとう。」

そう言って“政弘さん”は、愛美の選んだ服を持って嬉しそうにレジに向かった。