「そんなにがっかりされると帰りづらいんだけど…愛美がもっと一緒にいたいって思ってくれてるの、すごく嬉しい。」

「うん…。」

「今度の慰安旅行さ…自由行動の時間、二人で回ろう。もしうまく抜けられたら、二人で夜の散歩とかもしたいなーって。」

「え?」

(他の職員さんたちもいるし、それって難しいんじゃ…。)

「旅行とか連れて行ってあげたいんだけど、休みの日もなかなか休めないし…。気分だけでも…ね?」

どんなに仕事が忙しくても、“政弘さん”はいつも自分の事を考えてくれているのだと思うと素直に嬉しい。

「会社の行事って苦手だったんですけど…慰安旅行、楽しみになってきました。」

「でもいつかホントに二人だけで行こう。」

「約束ですよ。」

「うん、約束。」

“政弘さん”は不確かな約束とおやすみのキスを残して帰っていった。


愛美はため息をつきながらテーブルの上のカップを片付ける。

(政弘さんと付き合いだして4ヶ月くらい経つけど、泊まった事って一度もないな…。あ、最初の頃に私が酔いつぶれて家がわからなかったからって、一度だけ政弘さんの部屋に泊めてもらった事があったけど…それ以外はないな…。)

お互いに大人の恋人同士なのだし、一人暮らしをしているのだから、たまにはどちらかの部屋に泊まっても不思議はない。

だけど“政弘さん”も愛美も、お互いの部屋を行き来はしても、泊まっていけばとか泊めてとか、言われた事もなければ言った事もない。

(私から言うのは照れ臭いっていうのもあるけど…ただでさえ付き合う前に散々醜態晒してるのに、わがまま言って嫌われたりとかしたくないし…。)