“政弘さん”は愛美の体を包むように抱きしめて、髪を撫でながら耳元で、愛美好きだよと囁いた。

“政弘さん”の甘くて優しい声に愛美の体の奥がゾクリと疼く。

(やっぱりこの声に弱いな、私…。)

「政弘さん…私も好き…。」

愛美が“政弘さん”の背中に腕を回してギュッと抱きしめると、“政弘さん”は指先で愛美の顎を持ち上げて優しく口付けた。

“政弘さん”は愛美の唇に短いキスを何度も繰り返し、ゆっくりと唇を離すと壁時計を見てため息をついた。

時計の針は10時を過ぎたところを指している。

「はぁ…もうこんな時間か…。そろそろ帰らないと。明日が休みなら、もう少しゆっくり愛美と一緒にいられるんだけどな…。」

“政弘さん”の言葉を聞きながら、愛美は“政弘さん”の胸にギュッとしがみついた。

(久しぶりに会ったのにもう帰っちゃうの?明日が仕事でも、もっといて欲しいのに…。)

「ん…?どうしたの?」

“政弘さん”は微笑みながら優しく愛美の髪を撫でる。

(まだ帰って欲しくないってわかってるくせに…。)

まだ帰らないで、一緒にいてと言いたいのに、素直にその言葉が出てこない。

“政弘さん”はゆっくりと立ち上がり、愛美の手を引いて立ち上がらせた。

そしてその手を繋いだまま玄関へ向かう。

「俺もまだ一緒にいたいんだけどね…明日も仕事だし、そろそろ帰るよ。」

「ハイ…。」

愛美がシュンとして手を離すと、“政弘さん”は愛しそうに笑って愛美を抱きしめた。