緒川支部長は、愛美の部屋の前に立っていた。

インターホンのボタンを押しても、なんの応答もない。

まだ帰っていないのかと思い、スーツのポケットからスマホを取り出して何度電話を掛けてみても、呼び出し音が何度も鳴り続けた後、留守番電話になってしまう。

今夜は帰って来ないつもりなのだろうか。

電話に出るのもイヤなほど嫌われてしまったのだろうか。

愛美はどこにいるのだろう?



高瀬FPから話を聞いた後、居ても立ってもいられず、二次会の途中でカラオケボックスを飛び出した。

お酒を飲んでいるので車は運転できない。

タクシーで愛美の部屋に向かおうとすると、タクシー乗り場には長蛇の列ができていた。

ここでじっと待っているより電車で行った方が早いと駅に駆け込み、電車に飛び乗った。

電車の中で、窓の外を流れる景色を見つめながら、みっともなく嫉妬などしてつまらない意地を張っていた自分を責めた。

高瀬FPが言っていた噂は、本当かどうかわからない。

事実を確かめなければと思う気持ちと、もし本当だったらという恐怖心が入り交じって、イヤな汗が流れた。

もし高瀬FPの言っていた事が本当の事だったらと思うと胸が痛くて、苦しくて、うまく呼吸もできない。

だけど、今このまま愛美を離してしまったら、一生後悔すると思った。

絶対離さない、愛美を幸せにすると言ったのは自分なのに、その手を取って愛美を幸せな未来へ導く役目を、他の男に譲るなんて考えられない。

緒川支部長は握りしめた拳を額にあてて、噂はただの噂であって欲しいと強く願った。