確かに、愛美の反応を見るために、佐藤さんとはわざと親しげにしていた。

しかしいつの間にそんな噂が立っていたのか。

誤解を招くような事をしたのだから自業自得とは言え、もしその噂が愛美の耳に入っていたらと思うと背筋が寒くなる。

(噂って恐ろしいな…。しかし…“俺の噂は”って…まだ他にもあるのか?)

「じゃあ、あの噂は本当なんですかね?」

「あの噂?」

緒川支部長が聞き返すと、高瀬FPはビールのグラスを傾けながらチラリと緒川支部長を見た。

「知らないんですか?菅谷さん、オーナーと結婚するんですって。」

「えっ?!」

緒川支部長は愕然として目を見開いた。

「ドレスとか会場のお花がどうとか、結婚式の話も進んでるって。相談している所を見たって第一支部の職員が言ってました。」

信じられない、信じたくない言葉が容赦なく緒川支部長の耳に流れ込む。

(そんな…。)

「それに…菅谷さん、今日お酒飲んでなかったでしょう?やっぱりあれも本当なのかなぁ。オーナーが責任取るって。」

「責任って…。」

イヤな予感に、緒川支部長の胸がざわつく。

高瀬FPはテーブルの上にグラスを置いて、緒川支部長の耳のそばに口元を寄せた。

「妊娠です。」

頭の中が真っ白になり、言葉も出なかった。

どうやって息を吸えばいいのかもわからない。

(妊娠…?愛美が?!…あいつの子を……?!)