急に眉をひそめ、無言でイチゴをモグモグしている愛美を見て、“政弘さん”は不思議そうに首をかしげた。

「どうかした?」

「いや…なんでも…。」

愛美は慌てて紅茶をすする。

「とりあえず増産月は無事に終わったけど…来月は新人も入るし、営業部の慰安旅行もあるし…何かと慌ただしくなりそうだ。」

「あ…新人さんは今週いっぱいで支社の研修を終えて、来週から支部に配属でしたね。じゃあ明日は新人さんの書類を用意して…。」

愛美が明日からの仕事の段取りを考えていると“政弘さん”は小さく笑って、愛美の唇にイチゴを押し当てた。

「んんっ?!」

愛美は驚き目を見開いて“政弘さん”を見た。

「愛美、あーん。」

言われるがまま開いた口にイチゴを入れられ、愛美はわけもわからずモグモグと口を動かす。

「せっかく久しぶりに会ったんだし…明日も仕事だからもうすぐ帰らないといけないし…仕事の話はここまでにしよっか。」

「…ハイ。」

“政弘さん”はカップの紅茶を飲み干して椅子から立ち上がり、愛美の手を引いてラグの上でベッドにもたれて座った。

愛美が隣に座ると、“政弘さん”は優しく髪を撫でながら耳元に唇を寄せた。

「ここ最近忙しくてなかなか会えなくて…愛美を思いきり抱きしめたいなって、ずっと思ってたんだ。」