親指にリング、薬指に絆創膏


「てっきり彼女と待ち合わせだろうと思ってこっそりついて来たのにさぁつまんなーい。翔太の彼女、見れると思って楽しみにしてたのにー」
「ユキちゃんには見せないよ」
「何それケチ。ま、じゃあもうあたし戻るわ。……バイバイ、成美ちゃん?」
「……はい」

最後だけは、と無理やり口角を上げてみたけれどうっかり涙が落ちそうになった。それに気付かれる前にユキさんは素早くゆかりさんって人のところに走って行ったからよかった。
二人だけが取り残されて、感情のない目でユキさんの後ろ姿を見送った翔太くんを遠慮なく睨みつける。

「翔太くん」
「なーに成美ちゃん」
「……私って妹だったっけ」
「え? 彼女じゃなかったの?」

わざとらしく驚いたように言う翔太くんは先に歩きだしたから、その後ろ姿を追って私もついていく。
聞きたかったのはこっちの方だ。私って彼女じゃなかったの?

いや。彼女だ。彼女だったはず。少なくとも昨日までは。彼女。だったよねえええ? 1年記念日を祝ったような……? 夢……?

「……彼女、だけど、うん、彼女、だよね?」
「うん彼女じゃん」
「……さっき、妹って言ったよね?」
「嫌だった? 俺の彼女だって分かったらあの人……ユキちゃんっていうんだけど、絶対成美に質問攻めすると思ったからさ。そうなったら面倒じゃん?」
「……私のためだと?」
「当たり前じゃん」

私のため? ……ほんとに? そういう理由?
まあ確かに。妹だと言っても質問が弾丸みたいに飛んでくる人だった。
もし彼女だと言ったら、質問攻めにされて翔太君と会うどころじゃなくなったろうなと思う。強引な人って感じはした。

したけど。したけどなんか、ちゃんと彼女って紹介してほしかったな。なんてワガママかな。
……んんん? それだけのことで不安になる私が悪い?

なんかモヤモヤする。当たり前だけど、翔太くんの大学に女の子はいるんだよね。名前で呼び合っちゃうような、綺麗な人がいっぱいいるんだよね。
今まで考えたことなかったけど、目の当たりにしちゃうと結構不安になるな。

確かに高校の時から翔太君の周りにはたくさん女の人がいたけど。
翔太くんが卒業した3月までは毎日のように学校で会えてたのに。急に会えなくなってただでさえ寂しかったのに。
こういうこと、正直に言ってもいいのかな。とか考えてるうちに、翔太くんが私の頭に手を乗せて優しく撫でてくれた。

「翔太く、」
「ていうかさ、彼女だろうが妹だろうが、どっちでもよくない?」

――私だけだったのか。それは。
ははっと本当にどうでもよさそうに笑う翔太くんにショックで咄嗟には言葉が出ない。

全然違うよこのヤロウ。
と、ツッコんだのは心の中だけで、笑顔で頷くことしかできなかった。翔太君が言うことは絶対。ですのでね。