親指にリング、薬指に絆創膏



名前を呼ばれるだけで嬉しい。名前を呼んで返事してもらえるだけで嬉しい。顔が勝手に緩んで、もう一度翔太くんと名前を呼ぼうとした。瞬間。

「なに? 翔太の彼女?」
「……げ」

ふと彼の背後にある人影に今さら気付いた。
現れたのはショートカットの女の人で、綺麗っていうか美しいというか大人っぽいというか誰ですか。細い。

驚いて固まっていれば、彼女はふーんと値踏みするように私をジロジロ見てきたから少し戸惑う。

……ど、どなたでしょう。

彼女の存在には翔太くんも気付いていなかったようで、嫌そうに顔を顰めていたからその彼に視線を送れば、腕を引かれて彼女から距離を取らされた。

あ。よかった。翔太くんの友達かな。ちゃんと紹介してもらえるんだ。

「……ユキちゃん、いつの間について来てたん。怖いって、ビビっちゃってんじゃん、うちの妹」
「妹!?」

――なんて安心したのも束の間で。
私が叫ぶより早くに、ユキちゃんと呼ばれた女性が大声を出すから、こっちの声は喉の奥に引っ込んでしまう。

……妹?

背後の翔太くんを戸惑ったまま無言で見上げれば、爽やかな笑顔でかわされた。顔がよすぎる。

「うん妹。妹いるって前話したよね?」
「いや聞いたけどそういえば。え、ほんっとに妹? 全然翔太に似てないじゃん」
「ハハハ。今時似てる兄弟の方が珍しいでしょ。成美、こちら、俺の友達のユキちゃん」
「ユキちゃ……ユキさん……」

翔太くんの言葉を呟く。ユキさん。友達のユキさん。そして妹の私。妹? 妹って家族の、あの、同じ親から生まれた年下の女の子のことでは? 
だとしたら私、妹じゃないんですけど。それとも私がバカだから言葉を知らないだけ? んなわけない。

尚も疑いの目を向けるユキさんを誤魔化すように、私に彼女を紹介した翔太くんは悪びれる様子もなく涼しげな表情で笑っている。

妹って誰がだ。私か。私か? 似てないのは当たり前だ。似てるわけがない。できるなら似たかったけど。翔太君みたいな顔に生まれてたら毎日鏡見て終わる自信ある。最強遺伝子。いやそんなことより。

どうして翔太君。混乱したままもう一度翔太君に目をやれば、さりげなく逸らされた。
今すぐ彼女だと名乗り出たいけれど、翔太くんが望んでいないのに余計なことはできなかった。

ユキさんは暫くの間私をジロジロ見ていたけれど、

「……ま、そうだよね。まさか翔太の彼女が高校生のわけないか。ごめんね? 成美ちゃんだっけ?」

翔太君の彼女が高校生だったら変なのか。心臓がぎゅっとしてひりひりする。やがて納得したように微笑んで首を傾げるからちょっと複雑。いやちょっとじゃなくて結構食らう。

「……あ。いえ」
「かわいいねえ。高校生?」
「ユキちゃん言ってることおじさんみたいだよ」
「うるさいシスコン野郎」
「何それ心外―」

そのまさかなんですけど。どうなってるんだ。とは言えないまま。
笑顔を作ることもせずに無愛想に返事して、翔太くんだけを睨みつけたのに、彼はユキさんを見ているだけでこっちを見ない。
多分私の視線には気付いているはずなのに、見ない。そしてなんかめっちゃ仲良くない?

「さ、ほらユキちゃんもう満足でしょ、ゆかりが待ってるからさっさと戻ってやれば?」

翔太くんが顔を向けた方向には、栗色の髪の毛に緩くパーマをあてたロングヘアの女の子が心配そうにこちらを見ていた。

二人の友達なのかな。ユキさんも美人だけどあの人も可愛い。……私なんて高校生だもんな。そうだよね、大学生から見た高二なんてよっぽど子供なんだろうな。妹にしか見えないんだろうな。

翔太君も、私みたいなちんちくりんな高校生と付き合ってるって思われるの恥ずかしかったのかな、やっぱり。まあそうだよね。

か、彼女なのにな。