親指にリング、薬指に絆創膏



「翔太先輩てほんとクズ」
「樹里さん人の彼氏にひどくないですか」
「だって、普通元カノに渡す予定だった指輪今カノにあげる~? ていうか成美も成美だよね、普通受け取んなくない? むしろ怒ってよくない? 普通」

普通、と強調した樹里は、忌々しげに私の親指の付け根にはまるシルバーリングを睨みつけた。生ごみでも見る目。
まるで私を異常者みたいに扱うじゃないかこの人は。否定も微妙にしづらいのが悔しい。

「まあ? た、多少? 腹は立ったけど。……でもこの指輪、デザイン可愛いし。私の好みだし。指輪に罪はないって言うか……」

リングの中央に埋め込まれた深い赤色の石が大人っぽくて、シンプルだけど可愛い。高そうだし、捨てるなんてもってのほかだ。
……しかも、翔太くんが私に何かちゃんとした物をくれるのなんて初めてだし。

怒ろうにも、何故か上手く怒れなかった。

ちなみに1週間前の私の誕生日に翔太くんがくれたプレゼントといえば缶ジュース一本だった。別に期待してなかったけど。それに比べたらこの指輪は大きな進歩であるような気がしてならない。基準が狂ってることは自分でも承知済みですが。

元カノにはお高そうな指輪、私には缶ジュース1本という、プレゼントによって明らかになったこの悲しい差には、あえて気付かなかったことにしている。大丈夫大丈夫、大丈夫すぎ、私って鈍感だからね。余計なことにばかり気づく鈍感女。

「早く別れた方が成美のためだと思うなー、樹里は」
「1年記念日を迎えたばかりの私によくも!」
「確かに翔太先輩、顔はいいけどさー、それだけじゃん? 誰にでも優しくするし、顔がいいだけに浮気されそうー」
「……ま、まさか」
「ていうかもうされてるんじゃない? ダメ男は甘やかしてちゃだめだよー」

酷い言われよう。しかし正論。全部真実。翔太君は顔がどちゃくそに良い。そこらの芸能人よりかっこいい。私だってまんまと一目惚れしたもん。

そんな人が私みたいな平々凡々な女と付き合って、浮気してないわけがない? あ無理悲しいかな、否定できないや。
ぐ、と言葉を詰まらせていれば、誰かのケータイ電話が鳴って、樹里が顔を綻ばせた。

「あ、ごめん成美、彼氏迎えにきてくれたみたいだから、もう行くね?」
「え? でも樹里、工業高校の人とは先週別れたんじゃ……」
「いつの話してるの? また別の人。今度は社会人なんだけどね、車持ってるからすっごい使いやすいのー」
「使い……?」

じゃね、と満面の笑みで手を振る樹里は、さっさと教室を出て行ってしまう。
さすが樹里さんというかなんというか。使いやすいって言っちゃったよ彼氏のこと。よく翔太くんのこと言えたな?

唖然としていれば、それまで黙っていた仙崎がぽんっと私の背中に触れる。

「ほらな、俺がいてくれてよかっただろ。ん?」
「いやいや私も帰るし」
「薄情な女友達より金で釣れる男友達って言うじゃん? 晩飯奢ってくれんなら話聞いてやっても良いけど?」
「何それ初めて聞いたんだけど、奢らないしお金ないし」

金で釣れてる時点で友達じゃないよ!

まさかこうなることを見越して残ってたのかコノ野郎。奢るわけがないだろう! 樹里が薄情であることは間違いないけど。