華麗なる人生に暗雲があったりなかったり




 その後、おじさんは仁の肩を叩いて、寝室へと下がった。


 仁に全幅の信頼を置いているらしい。


 むっとした。


 仁と俺と二人きりになった。


 時計の針の音を聞きながら茶をすする。


 仁は寝転がっている。


 どうするつもりなのだろうか。


 というか、水野と佳苗も心配だ。


 だが、どこにいるのかわからない。


 ついていけば良かったと後悔しかけた時、玄関のドアが開く音がした。


 その音で仁が身体を起こす。


 帰って来たのは佳苗一人だった。



「水野は?」



「散歩するって、私はお邪魔だから帰って来たの」



「あら、おかえりなさい。佳苗さんもお風呂どうぞ」



 おばさんが水が入ったグラスを持って入ってきた。



「どこにいるんだ?水野は?」



「俊君、行く必要ないわ」



 おばさんが、間髪入れずに返してきた。



「あいつを一人にするのは危険です」



「ここはあの子の故郷よ。何も危険はないわ」



「あいつは、数日前、雪の中で寝て死にかけたんです」



 三人して俺を驚いた目で見る。



「あの子は本当に馬鹿ね」



 おばさんが頬に手を当て、ため息を吐いた。



「ええ。同感です。だから」



「俺が行く」



 俺の言葉が遮られ、仁が立ち上がる。



「これ小春の手袋ですよね?持っていきますよ」



 そう言いながらコートを手早く身につけマフラーを巻く。



「あら?ここでようやく仁君のお出ましね」



 おばさんが、待ってました、と言わんばかりに手をつき合わせた。