水野との夕食を取り付けてから少し経った、雨がさめざめと降っている日のことだ。


 雨で身体は冷えるし、雨が降る日は偏頭痛になることが多いから、たとえ偏頭痛がなくとも気分が滅入る。


 大学の帰り、雨が鬱陶しくて逃げるように本屋に立ち寄り、自然と料理本のコーナーへと足が動いた。


 水野は俺の作ったものを、おいしいと食べてくれるが、如何せん、おかずの種類が少ない。


 水野が喜ぶ姿を見ていて、調子に乗って違うものも作ってみたくなったのだ。


 本は買わずに適当に暗記して本屋から出る。


 そして、傘を開こうとした時、不穏な視線を感じた。


 ぞっと悪寒が走り、顔を上げると、そこには疫病神の仁。


 何だか、頭痛がした。


 俺と仁の間をサラリーマンが通り、絡み合う視線が遮られる。


 次に見た仁は汚らわしいものでも見ているかのような顔つき。


 俺も同じ顔をしているのだろう。


 ここにいるということは水野と会っていたのか。


 いや、水野は今日は友達の家に泊まりに行くとか何とか言っていたから違うか。



「小春がお前と一緒にいなかったのは不幸中の幸いだった」



 やっぱり、一緒ではなかったようだ。



「不幸中の幸い?」



「小春と偶然でも会えたなら、って思っていたら会ったのはクソガキ。これが不幸。クソガキと一緒にいる小春を見なくて済んだのは幸い」



 至極真面目に解説をする仁。



「あいかわらず性悪のようだな」



 俺は性悪がうつらないようにさっさと立ち去ろうとした。


 そしたら、仁が俺の後ろ襟を掴んだ。



「まぁ。丁度良い。お前と話したかったんだ。飯に付き合え」



「俺は話すことなんてない」



 俺の襟を掴んでいた手を乱暴に振り払った。


 こいつと飯なんて、どんな料理も一瞬で不味くなる。



「小春のことだ。邪魔されたくないんだろ?付き合え」



 それを言われると、どうしようもない。


 苦渋の決断だ。


 仕方があるまい。