桜の花びらがひらひらと風に乗り、どこかへ向かって旅立っていく。まるで新たな門出を迎えた、この学校の卒業生のように。

 早咲きの桜の木を見上げる。

 花びらたちは新たな場所へと向かい、ここに在り続ける本体の大木も、また新たな姿に変わろうとしているようだった。

 ひらりひらりと舞う花びらを掴もうとしたけれど、花びらはするりと手から逃げていく。

 舞っている桜の花びらを掴めば願いが叶うと、誰かから聞いたことがある。だけど、そう簡単には願いを叶えてくれないみたい。


 卒業式が終わったあと。

 すぐに家に帰る気にはなれなくて、幼馴染みの拓人と一緒に学校の裏庭に来ていた。

 せっかくだから、早咲きの桜を最後に目に焼き付けておこうかなって思って。この桜を再び見られる日がいつ来るかなんて、わからないのだから。

 私が掴めなかった花びらが地面に落ちていく様を見ながら、拓人がぽつりと言った。


「未来には、何が待ってるんだろうな」


 拓人が呟いた言葉は、どこか寂しげで、不安を帯びていた。

 桜の木にもたれて、ピンクの欠片のやわらかなシャワー越しに、清々しいほどに晴れている空をぼんやりと見上げている。


「どしたの、いきなり。センチメンタルな空気になってるなんて、なんからしくないじゃん」

「悪いかよ、俺がセンチメタルだと」

「べっつにぃ。悪いと思ってないけど」


 眉間にしわを寄せてあからさまに機嫌を損ねた拓人から目を逸らして、再び空中を舞う花びらに手を伸ばした。

 でもその手の勢いによって生まれた風が花びらの軌道をずらして、私の右手の横をすり抜けていく。