わたしは元婚約者の弟に恋をしました

 わたしたちはお店を出ると、琴子と別れた。

 琴子を見送った亜津子はふっとため息を吐いた。

「わたしも彼氏ほしいな。誰かいない? 職場の人とか、友達とか」

 わたしも舞香も首を横に振った。わたしの事務所で未婚の男性は一人だけだ。彼は今恋愛に興味はないし、そもそも職場の人間を友達に紹介するなどリスキーなことはしたくなかった。それに相手が亜津子たちであれば気が進むものではない。

「いい男がフリーってなかなかないよね。この前のほのかの友達も彼女いたんだね」

 わたしはその言葉に驚き、亜津子を見た。

「知らなかった? てっきりほのかも知っていると思ったけど、めちゃくちゃ綺麗な女の人と一緒にいたよ。すごく仲よさそうだったから付き合っているんじゃないかな」

 わたしはその言葉にドキッとした。心拍数が急激に上がった。何かにショックを受けたかのように頭がぐらぐらした。

 何にショックを受けたのか分からなかった。彼には好きな人がいることは知っている。彼にとっては忘れられないくらい特別な存在であることも。一緒にいたのはその好きな存在なのだろうか。それとも、別の誰かなのだろうか。恐らく、誰かへの愛をあそこまで真剣に語っていた彼が、他の人と一緒にいたということにショックを受けていたのだ。