わたしは元婚約者の弟に恋をしました

 その影に導かれ、顔を上げると、すらっとしたシルエットの男性がその場に立っていたのだ。白くきめの細かい肌に、長いまつげ。一つずつのパーツを観察すると、女性的な印象を受けるが、彼のがっしりとした体つきが、それを否定していた。はっとする程の顔立ちは、彼のパーツの一つずつが整っていることを一瞬でわたしの脳裏に教え込んだ。

 わたしは時間が止まったかのように、食い入るように彼を見つめていた。

 美しい人に見惚れたというのもあるだろう。だが、どこかで見たことがある。そうわたしの記憶が伝えていたのだ。

 再び冷たい風がわたしの傍を駆け抜け、わたしのへたれた心をシャキッとさせた。

 冬の足音が聞こえ始めた時期に、人気の少ない公園で、目の前に立ち尽くす人。

 いくら綺麗な人だったとしても、怪しいし、危険な目に遭う可能性も否めない。

 わたしは警戒心で全身を満たすと、身を怯ませ、目の前の彼を睨んだ。

 わたしの身に危険が及ぶようなことになれば、このまま逃げないといけない。そう心を駆り立て、ケーキの箱を握る力を込めたとき、目の前の彼が優しく微笑んだのだ。まるで子供にでも笑いかけるかのような、優しい笑みで。

 わたしは虚をつかれたように彼を見つめてた。