だが、彼はひょうひょうとしていてそんな暗さも感じなかった。

「岡本さんも大変なのに、一緒にいてくれてありがとう」

「仕事は忙しいけど、もう終わっているからそうでもないよ」

「いつもわたしに付き合ってもらってばかりだから、わたしにできることがあれば。岡本さんが歴史が好きなら、遺跡巡りにでも行こうか」

 わたしの言葉に、彼は突然笑い出してしまった。

 何か変なことを言ってしまっただろうか。

 戸惑うわたしの耳に予期せぬ言葉が届いた。

「ほのかさんはすぐ顔に出るね。その人には悪いけど、今は辛くないよ」

「そうなの? でも、何でその人に悪い、と」

「その人、ずっと付き合っていた恋人と少し前に別れたみたいなんだ」

「そっか。その人も大変だね」

 そう口にして首を傾げた。どこかで聞いた話、だと。

 うぬぼれた考えが湧き上がるが、そんなわけがないと戒めた。世の中には女の人は多いし、彼氏と別れた人がほかにいてもおかしくはないと思った。だが、頬が赤くなるのを自覚して、彼を見た。

 岡本さんと目が合うが、それ以上彼は何も言わなかった。

 わたしたちはタクシーで帰ることになった。タクシーの中ではプライベートな話題をしにくくなり、その好きな人の話はどちらかともなく打ち止めとなった。