わたしは元婚約者の弟に恋をしました

 早起きして、お風呂に入って、服装も髪型も完璧にセットをして、ケーキを買って。今日、一日のことを思い出すと、そうとしか思えなかった。

 彼女は誰なんだろうか。彼は彼女とどういう関係なんだろうか。

 わたしは彼の友人関係をあまりよく知らなかった。だが、頭の中で思い描いた友人という言葉を心のどこかで否定した。なぜなら彼女は彼にプロポーズをしていた。友達ならああいうことは言いださない。

 そして、彼はそれを断らなかった。

 冷たい風がわたしの髪の毛を乱していく。わたしは両手で頭を押さえた。

 今頃は彼の家でお茶でもごちそうになっている予定だったのに。彼は今、誰と何をしているのだろう。家に帰っているならいい。だが、あの女性と会っていたとしたら。

「結婚、出来るよね」

 冷たい風はわたしの心に風穴をあけるには十分だった。

 わたしの隣に腰掛けているケーキの箱の輪郭がぶれ、右手の甲で両方の目元をぬぐう。

 そもそも彼のいるこの町で気持ちの整理をつけようと思ったのが間違いだった。

「もう少し休んで帰ろう、と」

 決意を言葉で表したとき、わたしの足元に影が届いた。