「仁美はあの人と付き合う気はないの?」

「正直よく分からない。だって、付き合っても、別れた後のことを気にしてしまうといろいろとね」

 彼女は悲しそうに笑った。

 わたしは雄太とはもう会わない。だからこそ、忘れられそうな気がした。だが、幼馴染となるとそうはいかないのだろう。顔を合わせたり、新しい恋人ができたらその話を聞くかもしれない。そう考えると耐えられるものでもないのだろう。

「あの人は仁美を好きだと言っていたけど、うまくいかなかったときのことを考えないのかな」

「あの人はずっとそうなのよ。はっきり口に出しておかないと、わたしが信用しないと言うの。だからって周りを利用して付き合おうとしているわけでもないし、ただ本気だと知ってほしいとね。でも、わたしに好きな人ができたら、その人と幸せになってほしいとも公言している」

「すごいね」

 それだけ自分に自信があり、尚且つ仁美の幸せを願っているのだろう。

「あの人はちょっと変わっているんだよね。三十年間今まで一度も彼女を作らなかったくらいだもの」

「三十年?」

 どう考えてももてそうなのに。それだけ仁美への想いが本気という証明なのだろう。そして、頬を赤らめ、あきれたような表情を浮かべる仁美を見て、わたしはさっきの問いかけの答えに気付いた気がした。