わたしは元婚約者の弟に恋をしました

 店内に入ると、暖かい空気がわたしたちを包み込んだ。もう日が傾き、外食をして帰る人がひと段落したためか、店内にはぽつぽつと空席があった。

 わたしたちは窓際の席に案内され、それぞれがメニューを手にする。

 わたしはパスタとコーヒーを頼むことにした。メニューを閉じると、彼は難しそうにそれを見ていた。

「食べたいものがなかった?」

「いや、今はこういうのが人気なのかなって思って」

 祖父母の経営していたお店を思い出しているのだろうか。

「それはいろいろだと思うよ。世の中にはいろいろなお店があるように、そのときの気分しだいで食べるものなんて変わるもの」

「そうですね。それは分かっているんだけどね」

 彼もメニューを閉じた。

 彼は店員を呼び、リゾットを頼んでいた。

「職場の人とは一緒に食事したりするの?」

「そんなには。一月か二か月に一度くらいかな。事務所では俺が一番若手で、結婚している人も多いしね」

 彼はわたしの問いかけに笑みを浮かべた。

「今は一人暮らし?」

 そう問いかけて口を押えた。

「ごめん。何か聞いてばかりだね」