わたしは元婚約者の弟に恋をしました

 わたしは唇を噛んだ。

 彼と会うときは大半がそうだ。めぐり合わせのようなものなのだろうか。

「女の人が好きそうな店とか案内できたらいいんだけど、俺、そういうのよくわからないから希望があれば言ってほしい」

「そんな急に言われても。岡本さんのほうが詳しいんじゃないの? 女の子とデートをしたことも多そう」

「そんなことないよ。俺、今まで彼女いたことないから」

「まさか。めちゃくちゃもてたんじゃないの?」

「俺は好きな人以外とは付き合わないと決めていたから、関係ないよ」

 彼はそうさらりと言う。

 本当にまじめな人なんだ。

「好きな人とはうまくいきそうなの?」

「無理な気がする。それでもいいよ」

「そっか」

 本当に世の中はうまくいかないようにできている。

 こんなに見た目がいいだけではなく、おそらく性格もよくて、苦労も努力もしてきた彼が片思いを続けているのだから。

 わたしはそんな彼のことをもう少し知りたいと思った。人として彼に興味がわいたのだろう。

「仁美とよく一緒にいくお店があるの。軽い洋食のお店だけど、岡本さんは苦手な食べ物はある?」

「ないよ。なんでも食べられる」

「だったらそこにしよう」

 わたしたちはそのお店に行くことに決めた。