わたしは元婚約者の弟に恋をしました

 そう口にしたとき、一瞬彼の表情が陰った。言ってはいけないことを言った気がした。

「そうだといいかな。じいちゃんは俺が高校生の時に、ばあちゃんは大学生のときに亡くなったんだ」

「ごめんなさい」

 わたしの祖父母も同じ時期になくなっていた。だが、他の人も同じ経験をしている可能性があると、そこまで考えが回らなかったのだ。

「いいよ。下手に隠すのもおかしいしね」

 だったら学費や生活費はどうしたのだろう。そんな疑問が湧き上がるが、それは聞かないことにした。そこまで聞くのはさすがにずうずうしいと思ったためだ。

 だからこそ、彼は勉強したと言い放てるほどに、努力したのかもしれない。

 そのとき、わたしのお腹が鳴った。

 わたしは思わずお腹を押さえて、彼を見た。

「ごはんでもおごるよ」

「いいよ。わたしのほうが年上なんだから」

「気にしないで。俺がそうしたいんだ。ほのかさんを元気づけるために、ね」

「元気づけるって、元気がなさそうに見えた?」

「泣きそうに見えた。だから、少しでも笑顔になってほしい」