わたしは元婚約者の弟に恋をしました

 彼はさらりと言う。

 それは当然だろう。勉強せずにとれるような甘い資格ではないとは思う。

「でも、それは俺が税理士になりたかっただけで、ほのかさんは絵の練習をしていただろう。それと同じだよ。俺は自分のやりたいことに楽しみを見いだせるし、資格として形に残る分、幸せだったんだと思う」

 そう言った彼は顔の造詣が云々ではなく、とても輝いて見えたのだ。

 今日、あんなことを思ってしまったからか、その彼の表情が魅力的に見えたからか。可能性はいくつか思いつくがはっきりとした原因は分からない。ただ、わたしは彼に問いかけていた。

「そんなに税理士になりたかったの? どうして?」

「俺はじいちゃんとばあちゃんに育てられたんだ。カフェを経営していてね。そのとき、今の事務所の所長がよく来ていて、経営のこととか話をしていた。どうやったら経費を削減できるか、利益をあげられるか、客を増やせるか。俺も大きくなったらそんな祖父母の力になりたいとずっと思っていたんだ。だからかな。店の手伝いはしていたけど、後を継ぐのは絶対反対だと言われてたんだ」

 恐らく経営はあまり芳しくなかったのだろう。孫に苦労をさせたくない一心でそう言ったのかもしれない。

「そっか。なら、おじいさんとおばあさんは喜んでいるね」