わたしは元婚約者の弟に恋をしました

「何よそれ」

「そのままの意味だけど。うまく言えないけど、すっごく好きだなって思った」

 絵がという話のはずなのに、不意打ちのような言葉に心臓の鼓動が乱れた。

 彼の言葉に反応できなかった私は苦し紛れの言葉を導き出した。

「だいたい、先輩というのはやめてくれない? 高校卒業して何年経っているのよ」

「ならほのかさん」

「何で名前なの? そこは浦川さんでしょう」

 自分で自分をさん付けしてしまうのは妙に恥ずかしい。

「そう呼びたかったから。だから、ほのかさんと呼ぶよ」

 彼は至って当然といった表情を浮かべていて、照れなど微塵も感じさせなかった。

 なぜ他人を名前で急に呼ぶ彼より、わたしのほうが照れているのだろう。

「わたしが言っても聞く気はないんだね」

「ちゃんと先輩はやめたよ」

 このままだと平行線をたどる気がして、わたしはため息を吐いた。

「だいたいいいよね。あなたはさ。それなりの資格だってあるし」

「だって勉強したからね」