わたしは元婚約者の弟に恋をしました

 わたしはちょうど目の前にあった本に手を伸ばし、中身を確認した。目の前に並んでいたのは簿記の本だ。かなりの数が出ているのか、同じ級であっても様々な問題集が並んでいた。大学自体一般教養で経済を取ったことがあったが、手にした簿記の本はほとんど違うと言っても過言ではない。また、一から勉強のし直しになるのだろうか。

 そう思った、わたしの傍に人気を感じた。

「簿記の勉強でもするの?」

 澄んだ声に顔をあげるが、思わず手にした本を後ろに隠してしまった。

 そこには岡本さんの姿があった。

「何でこんなところに」

「たまたま本を買いに来たら先輩を見かけたから声をかけた」

 彼は手にしていた本をわたしに見せた。

 彼が手にしていたのは歴史の本だ。こういうのが好きなんだろうか。

「あれ以来よく会うね」

「俺のほうはたまに見かけていたよ。先輩はあまり人とすれ違っても気付かないんだろうね」

「わざわざ人の顔なんて見ない。目があったら嫌だし」

「俺も一部の親しい人以外は気づかないよ」

「わたしも入っているの?」

「もちろん」

 彼は屈託のない笑顔を浮かべると、わたしが手にした本の隣に並んでいた本を手に取り、わたしに差し出した。