わたしは元婚約者の弟に恋をしました

 それから彼は彼女をなだめ、彼女はまた「ごめんなさい」を連呼すると、出てきた道に引っ込んで行った。

「送るよ」

 彼はそう悲しげな笑みを浮かべると、歩き出した。

 わたしもそんな彼の後を追う。

 彼女は誰なのか。
 なぜ、わたしが両親に会うのを中止したのか。

 聞きたいことが波のように押し寄せてくるが、わたしは何も言えずに彼の後をただついていった。

 そして、つい数十分前に出てきたばかりの駅に舞い戻った。

 もう迷うことなく家に帰れる。

「ここでいいよ」

「改札口まで送るよ」

「大丈夫だから」

 わたしは精一杯の笑みを浮かべて、頷いた。

「分かった。悪いな。また、電話するよ」

 それでもぴくりとも動かなかった雄太の肩を叩いた。彼はわたしに促されたかのように頭を下げると、踵を返し駅前の信号を渡った。

 わたしも切符を買おうと、切符売り場に行った。

 お金を入れ、わたしの住む最寄り駅の切符が出てきた。だが、それを手にしてから家に帰ってからのことが頭を過ぎった。