顔に出ないように、気持ちを整えるために深呼吸をした。

 ゆっくりと息を吐き、言葉を紡ぎ出した。

「わたし、別れたんだ。振られたの」

 淡々と結論を発せたことに胸をなでおろした。

「そうなの?」

 彼女は目を見張る。

「ごめんね。無神経なことを言って。疲れているのかなという気がしたから。無理だったらわたしが代わるから」

「ありがとう。でも、できるだけやってみる」

 せっかくのチャンスなのだ。それをふいにはしたくない。仁美は優しく、能力があるからそう言ってくれるだけで失恋したというだけで仕事を放り出していいわけがない。それに今までは結婚という選択肢もあったが、それも完全に断たれてしまっていたのだ。

 絶たれた将来とともに、もう一つわたしの胸に過ったのはわたしより若いのにも関わらず難関資格を持つ岡本さんのことだ。

 わたしは別れ話になった日に、家に帰り、泣きはらした後、なんとなく岡本さんの持つ資格について調べてみた。といってもそんなに把握できたかは不明だけれど。お金を扱う難しい資格というイメージはあったし、調べてみても仕事内容を大まかに把握したくらいだ。ただ、彼はあの年で合格するには大学時代、もしくはその前からそれなりの努力を重ねたのだろう。

 辛い思いをした過去にただ甘えていたらいけないという気がした。立ち上がれないほどの傷ではないのだから。