「少しは楽になった?」

 ソファに座った彼はわたしに問いかけた。

 わたしは首を縦に振った。

「もう会うことはないんだもん。引きずらないように頑張るよ」

 わたしの意思表明に、彼は無理を感じたのか、どこか悲しそうな表情を浮かべた。

 雄太のことを思い出してしまったからか、わたしの視界がじんわりと滲む。

 少し元気にはなったが、泣かないというのは無理そうだ。

 今のうちに家に帰って、部屋で泣いてしまったほうが誰にも迷惑をかけなくていい。

 わたしは冷えてしまったコーヒーを飲み干すと、すっと立ち上がった。

「そろそろ帰るね」

「送るよ」

「いいよ。大丈夫」

 それでもと立ち上がろうとした彼を制した。

「もう大丈夫だと思うけど、どうしても今日の今日だし、涙目になっちゃうかもしれないから。そういう姿ってあまり人に見られたくないでしょう」

 彼はわたしの気持ちを理解したのか、渋い表情で頷いていた。

「本当にありがとう」

 わたしはそういうとぺこりと頭を下げ、彼の事務所を後にした。