「税理士なの?」

「試験には受かって、実務経験を積んでいるところ」

「すごいんだね」

「そうでもないよ」

 彼は自分の分のコーヒーを口に含んだ。

「今日も仕事だったの?」

 彼は首を縦に振る。そして、鞄を指さした。

「荷物を置きに帰ってきたんだ」

「そっか」

 わたしと彼はお互いに黙ってしまっていた。

 本当になんて偶然なんだろう。あのタイミングでこうして彼に会うなんて。

 けれど、一人で泣きながら町中をさまようよりはよかったと思う。

 涙が引いて落ち着くまで、家に戻れないから。

 こうしたときに頼れる友達はわたしにはもういなかった。

「わたし、恋人に振られちゃったんだ。といってもすでに振られていたようなものだったんだけどね」

 わたしはそういうと、感情のない笑い声を出した。わざと出したわけではない。自然にそうした笑いが出てきたのだ。


「そっか。その恋人とは長かったの?」

「一年ちょいかな。ただ、結婚の話も出ていて、このまま結婚するんだと信じて疑わなかったから」

 わたしの視界が霞んできていた。

 涙が再び毀れないように慌てて拭おうとした。