わたしは元婚約者の弟に恋をしました

「事務所って何の事務所なの?」

 ちらりと見ただけだが、事務所というからには会社は却下だろうか。病院ならそういう言い方はしないはずだ。あとは建築事務所に税理士事務所、弁護士事務所なども入っていたようだ。

 わたしはエレベーターの傍にあるフロアマップに視線を送った。

 そのときエレベーターが一階に到着した。わたしたちはエレベーターに乗り込んだ。彼は三のボタンを押す。三階は確か。

「税理士事務所」

 わたしが答えを導き出す前に、彼はそうさらりと告げた。

 エレベーターを降りると少し廊下を歩いた先にあるオフィスの鍵を開けていた。彼はわたしを中に招き入れ、入ってすぐにあるソファにわたしを座らせた。

「飲み物は?」

「なんでもいいです」

 彼は了解と言葉を紡ぐと、鞄をわたしの座った向かい側の席に置き、奥の部屋に消えて行った。

 わたしは一人になった空間でぼんやりと天を仰いだ。

 こういうところで働いていたんだ。といっても彼と会ったのは数えるほどなので、彼のことをわたしはほとんど知らなかった。

 香ばしい香りとともに、彼は戻ってきた。彼はコーヒーをわたしの前に置いた。