わたしは元婚約者の弟に恋をしました

 彼は眉根を寄せた。

「分からない」

「わたしのことが嫌いになったの?」

「そうじゃないよ。ただ、あいつがそうじゃないとおさまりがつかないみたいで。本当にごめん」

 今まで彼はずっとわたしには優しかった。その彼が唯一わがままを言ったのは、彼女に関することだけだ。彼女は彼にとって特別な存在なのだろう。どういう意味で特別なのかはわたしにはわかり損ねた。

 泣きつこうかとも一瞬考えた。けれど、今までわたしを幸せな気持ちにしてくれた初めての彼を、これ以上苦しませたくなかった。

きっとわたしがノーといえば、彼はずっと今のような表情を浮かべ続けているだろう。

「分かった。今まで本当にありがとう」

 わたしはそういうと頭を下げた。そのまま彼の傍から立ち去ることにした。
 わたしがここにいたら、彼を公園に釘づけにしてしまうのは分かっていたためだ。

 幸せだった一年あまりの歳月がわたしの目頭を熱くしていった。

 公園を出たとき、わたしの目から涙が零れ落ちた。

「これじゃ家に帰れないね」

 わたしは涙を拭うと、唇を噛んだ。