わたしは元婚約者の弟に恋をしました

 わたしは辺りを見渡し、ため息を吐いた。そんなわたしの肩が横から叩かれた。

 振り返ると仁美がにっと笑みを浮かべた。

「あの人を探していたの?」

「お金を借りていたのを返していなかったの。できれば今日、返したかったのだけど」

 今日は昨日に比べて肌寒かったため、会社で食事をした後に外に出てきたのだ。彼も同じような理由で別の場所で食べていてもおかしくはない。そのわたしたちの決断に同調するかのように、今日の公園は人気があまりなかった。


 彼に返すのは彼がもともと亜津子に払った一万円だ。亜津子のお釣りをそのまま渡してしまえば、彼に払わせたことと同義になってしまうためだ。

「昨日、返せばよかったのに」

「そうだけど、忘れていたんだ」

 わたしの言葉に仁美は苦笑いを浮かべた。

「お金はきちんとしておかないとね。あの人ってどこで働いているの? 連絡先は知らないの?」

「知らない。知っていたらよかったんだけど」

「そっか。また会えるんじゃないかな。そろそろ戻らないと」

「そうだよね」

 わたしは仁美の言葉に頷いた。もう昼休みが終わりに近づいていたこともあり、わたしは会社に戻ることにした。